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【第19回】新しいメディアを新しいビジネスに 倉内 均
 10月になってオフィスに届いた一通のたより。畑しめじ、紫しめじ、から松茸、くり茸などのキノコが採れはじめ、赤く色づいた野ばらの実やりんどう、われもこうが今も盛りの季節を伝える葉書だった。今年最初の秋の知らせは長野県黒姫からのものだった。

 96年から97年までの2年間、私は毎週のように長野県の黒姫高原に通っていた。長野新幹線ができる前で上野から3時間あまり、信州の奥深く分け入っていく信越線の車窓は季節ごとに美しく、黒姫に向かうだけで生き返るような解放感を味わっていた。
 私たちは、黒姫山の麓にある「竜の子」というペンションの厨房を舞台に、CSチャンネルで月に2回放送する『竜の子厨房日記』の制作をしていた。その時期、日本のデジタルCS放送がスタートし、それは私たち制作者に新しいテレビの可能性を期待させ想像力を刺激させる新しいメディアの登場であった。

 私たちに与えられた番組枠は一回2時間。私は番組のホスト役を「竜の子」の主人であり天才肌の料理人である中原英治さんにお願いした。中原さんはもともと美大を出たデザイナーで、どこかの店で料理修業をした経験はないが彼の料理を求めての常連客も大勢いて、また食客としての豊かな経験からの見識とアイデア、器に対する造詣の深さから、多くの料理人に影響を与え、一流と言われるシェフたちと交流を持って来た人だ。
 『竜の子厨房日記』は、毎回中原さんと交流のあるシェフを招き、あるときは料理の品を分担し、あるときは同じ食材を使って対抗戦の形をとりながらの料理番組だった。何より黒姫ならではの食材が豊かで、春はタケノコ、夏はトマトやズッキーニ、秋は山に入ってキノコを採り、冬は猟にもつきあって鴨やキジ、ウサギも俎上にのった。また直江津港から1時間という地の利を得た新鮮な魚など食材選びはそのまま黒姫の自然を映した。そして本番、その夜ペンションの客に供されるディナーを料理する、その一部始終が厨房の中だけで撮影され、2時間の番組になった。  それまでの多くの料理番組は時間の都合から過程のディテールが省略されレシピとポイントを見せるものだったし、グルメ番組と言われる多くが食べることに主眼が置かれたものだった。私たちはしかし、ただひたすら料理の行程にこだわった。洗う、切る、開く、擦る、たたく、ほぐす、煮る、焼く、蒸す、盛る、そして道具や器を洗う、料理人の一挙手一投足を追い、省略なしに料理の出来上がりで終わる、まるで2時間1カットのような番組だった。
 そしてこのこだわりが、従来の料理番組では見られなかった、自然の移り変わりと料理人の人間性を描くドキュメンタリーとなっていった。料理の準備から完成までの2時間は、水と火とによって素材が形と色を変容させる時間であり、料理が時間芸術であることをまざまざと認識させた。とりわけ面白かったのは、天才とか名人といわれる料理人が仕事を進めるなかで垣間見せる一瞬の迷いと素早い対応に迫られての即座の決断が、私には作り手のひとりとしても共有できる、見応えのある驚きと発見の連続だった。さらに進めて、制作者がその土地に定住し小さな季節の変化と暮しを記録しながら番組を送り出していく、そんなデジタル時代の拠点のあり方を夢想させた、CS放送の始まりにふさわしい方法論を見つけた思いもあった。

 と、ここまで長々と過去の事例を紹介してきたが、ここには反省もひそんでいる。
 今、パソコンや携帯端末への映像配信ビジネスが本格的な動きを見せ始め、アマゾンも来年春からのブロードバンドでの番組作りの仕事が持ち上がっている。数年前に出現し、私たちの未来の仕事として想像力を刺激したCSやBSのデジタル放送の現在は、関わる人の様々な知恵と工夫がなされているとはいえ、まだまだメディアとしてはマイナーの域にとどまっており、ビジネスとしても苦心を迫られている。私たちは制作者に過ぎないが番組の方法論のみに終始しているかぎり、王道を行く地上波と肩を並べるような新しいメディアを獲得できないことは経験済みである。ジャンルで発想しない自由な編成と小型軽便化され価格も安くなったデジタル機材を手に入れた制作者の自在なあり方。この二つがリンクしあって発信されるソフトこそが、ペイシステムやスポンサードの新しいビジネスモデルを生み出していくのだと思う。
 マスコミを賑わすのはいつもハードについてのニュースばかりだ。いま、新しい編成、新しい営業、そして新しいソフト制作が一体となった方法論が人々の話題を集めるようにならなければ、本当の意味での未来のメディアとビジネスには育っていかないだろう。

 黒姫からのたよりには、11月15日に解禁される鴨と新そばの知らせもあった。久しぶりの「竜の子」で秋を楽しみながら、新しいメディアについて考えてみたいと思う。

(2004年10月)


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