スペシャルドラマ『母とママと、私。〜10年目の再会〜』(1月28日(日)14時〜15時25分・テレビ朝日)を演出した。テレビドラマの演出は、「デザートはあなた」(1993)以来だから久しぶりということになる。といっても、技術、美術、編集、制作・演出部のスタッフのほとんどは『佐賀のがばいばあちゃん』のチームだったから、おたがいクセも性分も知れた現場はさしたる混乱もなく事が進む、確実でスムーズなものだった。
このドラマは、岸惠子さん、夏川結衣さん、そして吉行和子さん、と豪華キャストによって繰り広げられる、産みの母と育ての母、その娘の愛の物語。
岸惠子さんは、半世紀に及ぶ映画撮影所育ちの大スターとして、ゆるぎない存在感を見せ、夏川結衣さんは、いま乗りに乗っている女優の勢いと的確な演技感覚にあふれ、そして吉行和子さんは深い読解力で、役柄の持つ天衣無縫さと複雑な愛憎を表現する。3人それぞれの見事な役作りは見る者を魅了する。
これまで、どちらかといえば「男性」の作品が多かったわたしにとっては、今回のように女優3人が縦横にからみあう女性ドラマはチャレンジであり、冒険であった。そもそも昔から、「女」を撮るのは名匠と決まっているから、わたしなどの出る幕はなく、ましてや、世の中やわたしの周囲に見る母と娘の、仲が良いのか悪いのかさっぱり理解不能な関係など、いよいよもって自分を埒外に置いて我関せずを決めこむしかなかった。
いや、正直に言えば、こわかったのだ。このドラマのサブストーリーには、物語の舞台である岡山県牛窓の伝説が描かれていて、そこにはいくつもの顔を持つ怪獣が登場する。メインストーリーはその鏡のようになっていて、「私」は「母」と「ママ」という二人(?)の怪獣に立ち向かい、果てることのない争いをつづける。
たとえ親密ではあっても女同士の関係のなかには、どこかに見えない怪獣がひそんでいるのではないだろうか。きっと、わたしはそんな女性同士の世界に立ち入って怪獣に遭遇し、翻弄されるのがこわかったのだ。無意識のうちに「女性」ドラマを避けてきたのは、それゆえに違いなかった。
実際、今回のドラマの後半、「母」(岸惠子)と「私」(夏川結衣)の二人きりの、延々とつづく激しい傷つけあいと、急転回して終章にいたる愛情を交歓しあう姿は、演出していて非常にこわいものであった。
撮影が終わってから2週間ほどして、アフレコルームで3人の女優さんと再会した。作業も無事終わって帰り際、夏川結衣さんがわたしに仕上がり具合を尋ねてきた。「乞うご期待」と答えると、夏川さんは「こわ〜い!」と笑いながら出口に消えた。「こわいのはこっちだ」、聞こえないようにわたしは言った。
(2007年1月)