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【第41回】 「胸きゅん!」
倉内 均
 4月から始まったアマゾン制作の『夜は胸きゅん』(毎週火曜夜10時45分〜11時・NHK総合)が好調にすべり出している。毎回“胸にきゅんとくる”いい話が、スタジオに組まれた夜汽車のなかから生まれる。
 市井の人々が実際に体験したいい話を数分間の短編ドラマで再現し、その余韻にひたり、自分の身の回りにも起こったいい話を思い出してのトークで構成される15分番組である。ただ一人のレギュラー出演者である少年隊の錦織一清さんが車掌という設定で、切符を拝見する代わりに、毎回入れ替わり立ち替わりに登場する“乗客”であるゲストが持ち込むいい話を拝聴する。
 通常の番組と違うのは、ドラマで再現されるエピソードはあくまでゲストによって披露され、司会役である錦織さんはその観客となるところだ。学校や職場や家庭といったさまざまな場所での、人間関係が織りなすドラマを錦織さんはたったひとりで受け止め、感想を語る。錦織さんは、このたいへんな役回りを重すぎず深刻すぎずに、軽快にこなす。この番組の好調さの第一はそこにあるのだと思う。

 5月放送予定のなかで、作家の村松友視(視は旧字)さんがゲストの回では、中学校時代の教師の、胸にきゅんとくる言葉が短編ドラマとなった。ドラマを見終わって、錦織さんは記憶に鮮烈に残っている自分の学校時代のクラスでのある事件を語り、村松さんは最近刊行された随想集『男と女』にも収められている『クラスでヤギを飼う』の、小学校時代の教師のことを話した。昭和26年から27年にかけて、村松さんが5年生のときの担任が、ある日突然、クラスでヤギを飼う提案をする。まだ、戦後の貧しさを引きずる時代、貧富の差は生徒たちの勉強や運動やけんかにも影響を与え、とりわけ農家の子がどの面でもハンディを背負っていた。「そのような貧富の層を、ガタガタに崩して、子供のうちに誰にでも“主役”の楽しさを味わわせたいという依田先生の策略のひとつが、クラスでヤギを飼うというやり方だったのだ。そして、ヤギを飼いはじめるやたちまち農家の子が主導権をにぎりはじめ、当番の生徒たちは彼らに指示をあおいだ。ヤギの面倒を見るという場面において、農家の子はあきらかに主役に躍り出たのだった。」(『クラスでヤギを飼う』より)

 村松さんは番組で、つい最近までの日本では、学校のクラス、そして社会に多様性を認めあう社会があったことを語っている。わたしは収録のスタジオで深く“胸きゅん”になりながら、市井の人々から寄せられる体験的エピソードで成り立っているこの番組は、大きな可能性があると強く思った。それは、多様性である。

<『夜は胸きゅん』制作スタッフ>
プロデューサー : 松田信之
AP : 山田洋子/大野もも
構成 : 井上頌一
ディレクター : 平野嘉弘/河村毅/池上博司/三戸宏之
AD : 奥村太祐/松田春秋/能島敬子/田口草一郎
リサーチ : 米沢五月/藤田みわ

(2007年5月)


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