アマゾンはいま、日米韓の合作映画『The Harimaya Bridge はりまや橋』のメイキング・ドキュメンタリーを制作している。6月、7月とわたしは高知で撮影中のロケ現場に幾度か立ち会った。
映画は、サンフランシスコに暮らすダニエル(ベン・ギロリー)が交通事故で亡くなった息子が住んでいた高知を訪ねることで生起する、異文化同士の衝突と融合がテーマの作品である。ダニエルは画家だった息子の遺作である絵を集め持ち帰ろうと、土佐のさまざまな土地を歩きめぐる。
かれはその道のりで日本人の心情に触れるうち、太平洋戦争で父の命を奪われ今度は息子を奪われたことから憎しみと偏見の対象だった日本を見直し、いま初めて日本人とこころの交流に至るという物語。
脚本・監督は、この作品が長編劇映画第1作目となるアロン・ウルフォーク。アフリカ系アメリカ人である。そして俳優陣もダニエルを演じる主演のベン・ギロリー、息子役のヴィクター・グラント、そしてダニエルの兄役のハリウッドスター、ダニー・グローヴァーといずれもアフリカ系アメリカ人である。その点、この映画はアフリカ系アメリカ人による初めての「日本映画」と言ってよい。最近の『硫黄島からの手紙』まで、これまで日本を舞台に日本人を描いたアメリカ映画は数多い。今回の映画はしかし、白人ではなくアフリカ系アメリカ人の目で太平洋戦争をとらえ直した最初の映画と言える。そればかりか、軍人でも政治家でもスポーツヒーローでもない、地方の片田舎でごくふつうに暮らす日本とアメリカの生活者同士が率直に向き合う映画も初めてだ。
日本側の女優は高岡早紀、そして清水美沙。台詞のほとんどを英語で話しながらも抑制の効いた演技で「日本の女性像」を表現していく。
この映画は、日本と日本人を描く日本映画であると同時に、すぐれてアメリカ映画である。それは、アメリカにおける「黒人差別」のテーマが根底にあるからに他ならない。映画のなかで、子供の頃から絵が好きだった息子を市の美術館に連れて行きたいが、当時アフリカ系アメリカ人の入館は禁じられていて、やむなく夜間に知人の守衛に頼んでこっそり絵を見せたというエピソードが語られるシーンがある。学校、美術館や図書館などの公共施設、乗り合いバスなどの交通機関、レストラン、エンターテインメント、大リーグをはじめとするスポーツなど「黒人入るべからず」の時代は、公民権法が成立する60年代半ばまでつづいた。主人公ダニエルはその時代を生きてきた人間であり、息子世代のウルフォーク監督の立脚点もそこにある。
この映画の物語が仕組みとしてすぐれていると思うのは、そうしたアフリカ系アメリカ人の問題意識を日本で展開しているところだ。非常に美しい高知の風土での愛の交流として描くことによって、この映画は日本やアメリカの個別性を超え、一気に世界規模の普遍性を獲得する。
異文化同士のぶつかりあいは世界中で起こっている。しかし、互いのうちにある偏見を克服しようとするこの映画のメッセージは世界のどの人々にも届くだろう。
この映画の脚本を見いだし、エグゼクティブプロデューサーも務めるダニー・グローヴァーは、わたしの質問にこう答えた。
「この映画は、21世紀の人間がどうやって共通言語を持ち、豊かなコミュニティ実現の担い手となるかを指し示すものだ」
7月下旬、映画はサンフランシスコでの撮影が終わり年内の完成、来年の初夏公開に向けて作業が進む。『The Harimaya Bridge はりまや橋』は来年のカンヌ映画祭への出品も予定されているという。
(2008年8月)