『U2 3D』(3月7日(土)新宿バルト9ほかで公開)の試写を見て、3Dの今後を考える上でとても刺激的な映画だと思った。
2005年に始まったU2の世界ツアー「ヴァーティゴ・ツアー」に同行し、メキシコ、ブラジル、チリ、アルゼンチンでのコンサートを7台のデジタル3Dカメラで撮影したものだ。
冒頭、ラリー・マレンが叩くドラムセットのショットから始まるが、ドラムの一つ一つが飛び出しての立体感あふれる映像は、これまで経験しなかったコンサート映像の新しい体験だった。コンサートライブの構成は従来のものと変わりないが、3D効果はバンドの一人一人を独立した個人として印象づけるだけでなく、スタジアムを埋めた数万人の聴衆をマスの群衆から個の集合として見せてくれる。客席に長く張り出したステージに進んで聴衆のなかで歌うボノは、まるでたったひとりで未知の世界に踏み込んだ冒険家のように孤独だが、演奏とともに生まれる聴衆との一体感を集約する絶対的な存在にさえ思わせる。この聴衆との一体感の表現こそライブコンサート映像の醍醐味とするなら、3Dはひじょうに有効である。
今年は3D元年といわれるように、3D映画が次々と公開される。『ナットのスペースアドベンチャー3D』、7月の『アイス・エイジ3』、8月の『ボルト』、そして12月のジェームス・キャメロン監督『アバター』と10作品を超える。
昨年10月に公開された『センター・オブ・ジ・アース』はその先鞭をつけるものだったが、地底世界への冒険譚というやや古典的な物語に最新の3Dを持ち込んでは見たものの、たとえば槍のように先端が尖ったものがカメラ(客席)に向けられて目の前に迫ってくる過剰な立体演出は、基本的には「驚かし」のアトラクションの域を出ておらず、地底の奥深くの「もうひとつの地球」を提示しながら、現代的な観点はなく、かえって作品の質を減殺してしまった。3D作品がその効果を主張するあまり、人間ドラマから遠ざかり、現代性を失ってしまった例だった。
『U2 3D』は、その意味ではきわめて現代的な映画だった。なぜなら、この作品はナショナルジオグラフィックによって製作されたからだ。動物や自然の映像にかけては世界的な第一人者が、地球環境というテーマに向き合うとき、ボノをはじめとするU2を選んだのは納得がいく。そして、3Dを用いてかれらと数万の聴衆の人間としての存在感をアピールしたかったのだろう。そう考えると、この映画は自然や動物や植物とおなじひとつの世界に人間は生きているというナショナルジオグラフィックならではのメッセージを発信しているのだと思った。
今後3Dが方法として人々に受け入れられるとすれば、描かれる世界や登場する人間の存在としての「立体感」を示すことだと思う。複雑で繊細な生き物としての人間の陰影を立体的に捉えることで、けっして平板ではない本来の姿を見つめ、自己と他人の関係性を明確にし、我々を取り巻く風景にも存在感を与える。メディアとしての3Dはそのとき力を発揮する。
(2009年2月)