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【第58回】 ドキュメンタリー劇場
倉内 均

 2010年2月にティ・ジョイの新宿バルト9において、NHKBSで放送されたドキュメンタリー番組10作品が一挙上映されることになった。NHKの番組がまとまって劇場上映されるのは、1926年に日本放送協会が設立されて以来83年の歴史で初の試みだという。
 今回上映される作品は、『マンホール・チルドレン』、『ヤノマミ~奥アマゾン・原初の森に生きる』、『無言の遺言~棋士藤沢秀行と妻モト』、『残照~フランス・芸術家の家』などである。いずれもさまざまなコンクールで受賞した傑作揃いで、制作会社の手になるドキュメンタリーである。わたしは放送でほとんどを見ているが、注目すべきは、多くの作品が海外の社会の実相をとらえている点だ。このことは、内向的になっている現在のテレビ状況にとって近い将来の可能性を指し示していると思う。
 今回の開催の発端は2年ほど前に遡る。わたしとシネコンのデジタル化を進めるティ・ジョイのプロデューサーがNHKエンタープライズのK部長(当時)を訪ね、NHKのドキュメンタリー番組を映画館で上映できないかと相談したのがきっかけだった。その頃から、わたしたちはティ・ジョイを拠点にして、ドキュメンタリーの恒常的な公開の場を作るという構想を描きはじめている。その最初の試みが今回の開催となった。そして、テレビの制約にとらわれない、社会や企業や権力を批判的に描いたドキュメンタリー映画にも門戸を広げ、豊かなドキュメンタリーの場にしたいと考えている。
 こうしたドキュメンタリーは、いわば「少数派の意見」である。少数ではあるが、健全な社会に必要なものだとわたしは考える。かつてはすべての放送局に、ジャーナリスティックな視点でのドキュメンタリー枠があった。しかし、視聴率競争の激化で、多数を狙った番組がドキュメンタリーを駆逐していった。一方、映画界においても動員数を一義にした映画作りが全盛である。社会と直接的に深く関わりたいという思いは、いますべてのドキュメンタリーの制作者にある。
 今回の上映は、2011年の地上波完全デジタル移行を控え、映画とテレビの境界線を越えて、デジタルコンテンツとして劇場展開の可能性を探るものだ。
わたしは、デジタル化の加速によって、東アジアを中心にしたグローバルな規模でのドキュメンタリー復活の幕開けになると考えている。

(2009年12月)


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